2018年の7月に受託収賄の容疑で東京地検特捜部に文部科学省科学技術学術政策局長が逮捕されたニュースは世間に衝撃を与えました。
その賄賂と判断された物が金銭的な物ではなくご子息の医学部入試の加点という内容が特異だったこともあり、世間からの注目もあったのだと思います。
ことの発端は文部科学省が行なっている私立大学の研究を支援するブランディング事業の選定校に東京医科大学が選ばれるように東京医大の当時の理事長が文科省幹部に依頼してその見返りに幹部職員のご子息の入試成績に10点加算することにより東京医科大学に正規入学させてもらうというのが事件の概要です。
まず冒頭文部科学省の元局長とこの受託収賄事件で東京医大と文科省の仲介役とされる医療コンサルタントの2人が東京地検特捜部に逮捕される場面からスタートします。
その後は医学部入試の特性などの解説があり、裁判の公判記録を中心に紹介される流れが書籍の主流です。
この本は検察イコール悪であり、被告には無罪が前提でこの事件は冤罪であることを念頭に置かれているので、読者の中には違和感を感じる人もいると思われます。
しかし日本の裁判は検察の主張が大きく反映されやすい特徴があり、起訴されれば99.9%は有罪判決が出るという特性があります。
なので所謂ヤメ検といわれる検事出身の弁護士はこの特性を熟知している関係で、有罪判決が下されることを前提に減刑や執行猶予付きの判決が出るように努力する傾向があるようです。
この裁判の中で検察側は試験の成績に10点加算しなくても、元局長の次男は補欠合格はできたことを認めている点が違和感を感じるところです。
医学部の入試の特徴として、特に私立大学の場合私立大の御三家とされる東京慈恵会医科大学や慶應義塾大学や日本医科大学といった有力私大や国公立大学は別として入学者が流出しやすい傾向があり東京医大などは毎年多めに正規合格とは別に補欠合格者を決定しておくそうなので、正規合格でも補欠合格でも入学後の待遇に差はないようですが、当時の理事長が文科省とのパイプを持っておきたい考えがあったからなのか、わざわざ10点加算して正規合格する措置を行なったわけで本来ならば元局長や、仲介に入った医療コンサルタントが逮捕起訴される必要がないというのが著者の見解です。
また実際のところはどうなのかわかりませんが、当時森友学園や加計学園の問題もあり財務省や官邸が火消しに躍起になっていたので検察が忖度して文科省汚職として立件したという話が紹介されていましたが、これが事実ならば三権分立が損なわれることであり大問題になり得る話です。
この事件を機に皮肉にも長年問題とされていた、医学部入試の性差別問題が表沙汰となり事実を認めた大学側が受験生に対して不合格の撤廃や損害賠償など措置を行わざる得ない事態になったことは、この事件がなければ闇に葬られた状態がまだ続いていたのではないかと思います。
この書籍では、医学部入試の独特な特性を知ることもでき、個人的に面白かったのは医療コンサルタントの経歴の紹介で大変読み応えがありました。
公判記録が主ですが、医学部の特性や当事者周辺の取材などが入念になされてお入り、読み応えがあります。