昭和史について触れる機会は多いと思いますが、特に戦前や戦時中の時代に焦点を当てた場合は政治思想や軍国主義といったイデオロギー的なマクロな情報に触れることが多いと思います。
しかし戦前の時代の庶民の暮らしぶりについてスポットを当てた書籍やドキュメンタリーなどはなかなか触れる機会がありません。
今回読了したちくま文庫の「月給100円サラリーマン」の時代は戦前時代である、昭和一桁の時代の庶民の暮らしぶりについて主に物価をベースにしながら衣食住や教育や就労といったカテゴリー別に当時の庶民の生活実態について考察していく作品です。
年長者が「最近の若者はダメだ」とか「俺の若い頃はみんなしっかりしていた」などといった話を耳にする機会は多いと思います。
そうした話を聞いていると昔の人々は凛としていて立派な人が多いと感じてしまうと思いますが、この本を読んでいくと必ずしもそうとは限らないと感じます。
この本の解説でも紹介されているようにNHKの連続テレビ小説では戦前や戦時中といった昭和初期の時代が舞台になっていることが多く登場人物も立派な方が多いので自然とそう感じとってしまうのでしょう。
この本の中に紹介される向田邦子さんの作品に登場する人物は立派な人物ばかりではなく短所のある人物もよく登場するようです。
そうしたことを念頭において昭和初期を舞台にした向田作品を見るとまた違った解釈もできる思います。
読んでいて当時と比較すると社会の制度が変化していき価値観や生活スタイルなどが変わったところも多いと思いますが、本質的なところはさほど変化が見られないように感じます。
戦前の頃から経済誌などの特集記事では現代でもよくある出身大学別収入ランキングや企業別収入ランキングといった記事が当時からもあったようで、いい大学を卒業して一流企業に入るといった考え方というのは戦後に始まったことではなく戦前の社会でも既に定着していたようです。
そのため現代でもよくある教育熱心な家庭も当時から多かったようです。
また先ほど話をした「昔の若者は優れている」という年長者の武勇伝ですが当時と現代でも立派な人も平凡な人も存在したわけで
昭和初期の大学生もテストが近くなると真面目な同級生からノート借りてその場しのぎで勉強していた学生も多く。
またそのノートを現代風に表現するとコピーして売り捌く強者もいたようです。
社会の制度やイノベーションによって人々の社会生活が多少変化したことはあると思いますが、この本を読んでいくとそれほど人間の本質は変化しないということが理解でき当時も文化があり人生の苦労や喜怒哀楽があるということを知ることができとても面白いです。
著者は共同通信社で記者経験のある方で中国に勤務経験があり中国人と日本の戦前の庶民の暮らしぶりについて話をした時にとても面白いと評価されたようです。
日中韓の三ヶ国というと歴史認識の問題で対立が激しいですが、こうした教科書や受験日本史の情報だけでは見えない国の歴史を知ることができれば一つの国の見方はまた違ってくるのではないかと感じます。
庶民の暮らしぶりについて紹介した書籍はなかなかないので新しい発見ができました。